収穫2024

気温も落ち着き、爽やかな風が吹くこの頃、丸瀬家ではついに今年も稲作のフィナーレ、稲刈りの時期を迎えております。
現在絶賛稲刈り中の様子を伺うとともに、今年の稲作を振り返りたいと思います。

大山の麓にて 晴天のもと進む稲刈り

聞き手 丸瀬家スタッフ菱谷
話し手 丸瀬和憲

菱谷
さて、稲刈りが始まって続々と作業が進んでいる様子だね。今年の感触はどうですか?

丸瀬
うん、1番注視しているのはイネカメムシの影響だね。去年からイネカメムシの被害が始まって、収量が半減した経緯があるから、今年はどうだろう…と。

菱谷
昨年の収量半減は衝撃ニュースだったね…
今年は実際に稲刈りしてみて、影響はどうだった?

丸瀬
今のところ、幸いにも例年の2.3割減という感触かな。ドキドキ。
この状況の中で、考えることはいっぱいあるんだけど、改めて重要な課題は「健康な稲」と「健康な土」をいかにつくるかという、その2点だな、と。

昨年の大幅な収量減を受けて、さて今年はどうするかという仮説を立てて、去年の稲刈りから今期の収穫に至るまで、新たなアプローチを試してきた一年でもあったね。

菱谷
具体的な取り組みとして、新たに試したものにはどんなことが?

丸瀬
まずは、昨年の稲刈り後に取り組んだ土作り。
重たく力の強いトラクターが圃場内で作業するという事で土中に硬盤層と呼ばれる、締まった硬い層ができてしまう。そのせいで植物の根っこも深くに入っていきにくいし、水はけも悪くなってしまう。
その解消のために「サブソイラー」という、土中に深さ30cm程度の切り込みを入れる道具を使って、硬盤層を破壊する。
水と空気を通しやすくすることで、微生物を含むあらゆる命が活性化することや、稲藁の分解を促進することが期待できる。

この大きな爪で大地を掻く
切れ込みを入れることで水と空気を通しやすく

菱谷
前回「大地の再生」の話を聞けたから、より水と空気の大切さをイメージできます。

丸瀬
次に苗作りのこと。
浸種といって、4月に種となる籾(もみ)を2週間前後水に浸しておく作業がある。これまでは桶に井戸水を循環させていたのだけど、今年は山奥の川に浸ける方法を試みた。これは、常温で水を循環させる事により、水温が上がり雑菌が繁殖し感染することや、発芽してしまうという課題があったから。川に浸ける事で大雨の時、流されるリスクや心配もあるけど種や苗を考えるとね。

そして品種。
これまでの「鳥取旭」「朝日」に加え、新たに「ヒノヒカリ」と「くまみのり」を試験的に植えた。無施肥でやっていけるのか、ここの気候に向いているのか、またはそのポテンシャルを感じられるか、そして美味しいかどうか…など、栽培と食味の観点から品種の選定をする感じ。

あとは田植えの前、田んぼに水を入れるタイミングを変えたこと。
例年だと10日前くらいに入水するところ、今年は1ヶ月前には入水を開始したんだよね。
水を早く入れることで、雑草も早く芽を出す。その間3回の代かき(水を張った状態で耕す)をする事でより雑草の少ない状態で田植えを始められる。
詳しくはまた今度にしよ笑

と、いろんな作業フェーズで新たな試みをいろいろとトライした一年だったね。

菱谷
例年以上に試行錯誤な年だったということだね。

丸瀬
イネカメムシの件は、収量のことを考えると歓迎できることではないけれど、自然界からのメッセージだなって。この地域として向かい合い続けなくちゃいけないと思う。
やっぱり健康な土と健康な稲。この視点っていうのは、ずっと考えていく課題だね。

菱谷
さて美味しいお米になるまでにはまだまだ作業が続くよね。
このあとどんな作業が待っているのでしょう?

丸瀬
稲刈りを終えたら、乾燥機で40℃以下の低音の温風でゆっくり乾燥させ、籾摺り(もみすり)機で籾殻を剥く。次に、小さいサイズの米を選別し、石抜き機(石を取り除く)、色彩選別機(虫食いなど変色した米を取り除く)を経て、最後にもう一度粒の大きさを揃えるために選別にかけて、やっと出荷できる状態に。

収穫を終えたら絶えず乾燥作業が進む

菱谷
長い道のり…!!

丸瀬
機械様様です。

菱谷
話を聞けば聞くほどに、こうやって時間と手間と想いをかけて、口にすることができるお米がなんと尊いものかと…感謝の思いでいっぱいになります。
みなさんもぜひ、丸瀬家の新米を楽しみにお待ちください!

輝くお米
鋭意稲刈り中!

編集後記

お米の販売も始まりました!

オンラインストア「丸瀬家商店」にてご覧いただけます。

今年のお米、是非ご賞味ください。

https://maruseke.theshop.jp

大地の再生とは?

前回の草刈りの話に続き、まるちゃんがここ数年関心を持って取り組んでいる「大地の再生」について、関心を持ったきっかけや、実際の活動についてインタビューしました。

聞き手 丸瀬家スタッフ 菱谷
話し手 丸瀬和憲

最近の食べれる森シュトレン敷地の様子 水路を広げています

菱谷
さて、まるちゃんとの話の中でたびたび耳にする「大地の再生」。
ホームページを拝見すると…

『造園技師・矢野智徳(やのとものり)が長年にわたる観察と実践のくり返しを経て見出した環境再生の手法を学び、傷んだ自然の環境再生施工と、この手法の研究・普及啓発をテーマに活動しています。』

とあるね。

具体的にはどんな活動なのだろう?と。

丸瀬
そうだね。ちょっと抽象的な話から始まることになるけれど、まずはこの考え方において重要な、水と空気について。
これらは別の物質のようで、分けられないもの、常に連動していて影響し合っている、という根本的な考えがある。

たとえば、ストローとか醤油さしとかを想像してみて欲しいんだけど、どちらも口を押さえて空気が通らないと、水も動かないじゃない?

菱谷
うん、ほんとだ、そうだね。

丸瀬

だから、水と空気ってそもそも分けられないっていうのがあって。常に連動して動いてるんだよ、っていうのがこの現象をイメージするとわかりやすいよね。

菱谷
イメージが湧きました。

丸瀬
次に、月と水の連動について。このことについては、昔の日本や今でもヨーロッパで行われる「新月伐採」という木の伐採方法を例に挙げるとわかりやすいんだけど…

菱谷
あまり聞いたことがないな、「新月伐採」とは?

丸瀬
満月から新月の日にかけて、木を伐採することなんだけど、その時期は木の水分が枝葉や幹から根へどんどん下りていくんだよね。
その時期に伐採された木は水分量が少ない。満月だとその逆で、木がいちばん重たい状態の時に伐採することになる。その結果、製材後の材木としての品質や寿命にまで影響すると言われている。

絶賛準備中の宿泊小屋は、新月伐採の材木をふんだんに使っているので、詳しくはまたその回で!

菱谷
へぇ〜!

丸瀬
と、すこし話が逸れたけど、つまりこのことからもわかるように、水や空気は天体の動きとかも連動して大地に関わるよね。

菱谷
壮大な連動…

丸瀬
まさに。
自分の身近な環境で考えると、大山のてっぺんから日本海までが全部連動して呼吸してるみたいな…そういうスケール感の中の一部に自分たちの田畑がある、ということ感じさせてもらえたのが、この矢野さんの伝える「大地の再生」で学んだ視点。

自分だけの田畑が順調になればいいというような視点から、 この地域全体の一部を自分たちは担っているんだという視点をもらえたのは、めちゃくちゃ大きな気づきだった。

菱谷
なるほど。

丸瀬
水と空気が滞りなく通ってるっていうところには、命が育まれる。例えば草、動植物、目には見えない菌だね。
水と空気が滞りなく流れていれば、そこに草や木の根がちゃんと通っていって、土壌をしっかり固定してくれる。そして、柔らかい。
その逆で、空気が滞っていると健全な根を張ることができない。すると、木とか山が本来持ってる保水力みたいなものが発揮されないよね。

そんな土壌の地表に雨が降り注ぐと、降った雨を吸うことができずに雨水は地表面を流れていく。すると地表がどんどん削られて、いつかは谷になり、大量の水が集まると、そこから決壊していく、ということになるんだよね。
そうならないために、土に水も空気もきちんと通しましょうっていうこと。

菱谷
とてもわかりやすかった!
そういえばこの「大地の再生」にまるちゃんが出会ったきっかけは何だったの?

丸瀬
近くの仲間たち(蒜山耕藝、前田造園)から、まるちゃんもきっと関心があるはずだよ、と講座に誘ってもらって。

菱谷
ここ「食べれる森シュトレン」の敷地でも、矢野さんをお招きしてワークショップで指導してもらったんだよね?

矢野さんをお招きした2016年

丸瀬
そうだね、6年ほど前かな。
店舗敷地やその周りの水と空気の流れを良くするために、2日間、のべ100人の参加者の方々と共に、溝…水脈というんだけど、その水脈を掘って、炭や枝葉を敷いていく作業をしたんだよね。

作業は大勢のみなさんと一緒に

菱谷
炭や枝葉にはどんな役割が?

丸瀬
炭には多孔質といって小さなたくさんの穴があって水や空気を通す役目があるし、枝葉は土の露出を防いでくれる。
全体として、呼吸できる場所を作るっていうイメージで作業を進めていく感じかな。

水脈を掘った様子

菱谷
風や水が通ると、その場所も生まれ変わるようだね。

丸瀬
一方、現代土木で作る水路で一般的なものに、コンクリートで作ったU字溝というものがあるけれど、それだと土を塞いでしまって水や空気が自由に行き来できないし、草も根を張れない。

いかに水を集約して早く流すか、という考えで敷かれるU字溝だけど、これも効率や生産性を追い求めた例の一つで、今の時代、世の中のあらゆるところが「集約」ばかりになってしまった。

菱谷
うんうん。都市部への人口過密も、ごみの集積も、すべて集約…

丸瀬
対して、自然界ってのは本来全部「分散」。

集約したコンクリートによって水の抜け道が行き詰まって起こる洪水を例にとっても、自然界においては水の逃げ道がいっぱいあることが望ましい。つまり「分散」だよね。

菱谷
集約と分散の対比、ハッとさせられます。

丸瀬
そしてこの「大地の再生」は一度やったらそれでおしまい、ではなくて、ずっと手を入れ続けることも必要。

菱谷
常に観察を続けながらその土地と付き合っていく、ということなんだね。
とても勉強になりました。

食べれる森シュトレン周りの大地の再生は続きます

編集後記
この「大地の再生」の取り組みがよくわかるドキュメント映画「杜人」は、1年前の春に食べれる森シュトレンでも上映して、よき学びの会となりました。
また、まるちゃんもメンバーの一員である「もりのわ」は、近隣の仲間たちと月に一度定期的に集い、周辺の土壌環境にアプローチする活動を行なっています。
関心のある方は、Instagramでも情報発信をしておりますので、ぜひご覧くださいね。

もりのわInstagramはこちら↓
もりのわ